2008年12月11日木曜日

「コーチングシンポジウムに参加して」

「コーチングシンポジウムに参加して」
HTU選手強化委員 指導者養成委員 
日本体育協会トライアスロン指導員 地原 健司

日本選手権の翌日、増田HTU強化・指導者養成委員長とともにシンポジウムに参加しました。
内容は・・・講演①「北京報告」~井出樹里5位入賞までの道のり~ 
      講師:強化本部長代行 飯島健二郎
     講演②「JISS医科学サポート・ランニング動作解析」
     講師:国立スポーツ科学センター研究員:本間俊行
午後は・・・強化本部会議として選手強化の方策やタレント育成についての意見交換や、
     来年度のJTU主要大会など。

【強化本部会議】
各ブロックの指導者からはオリンピアンの強化方法やジュニアタレント発掘・強化についての意見が多く出され、予定の3時間を1時間もオーバーしてしまうほど熱く語る指導者ばかりでした。とくに印象的だったのは、中山俊行さんの「選手派遣に関してW-CUPではポイントをとる,日本代表として出場する・・・ではなく、勝てる選手のみ派遣すべき」との意見と「本当に日の丸を背負う選手は一握りしか見受けられない」という断言。
福井英郎プレイングコーチの「オリンピックでメダルを獲るためには」という課題に「男子枠を先ず3にする」という優先案。
八尾コーチの冒頭に発した「あなたは明日から仕事を失ったらどうしますか?」という問いかけからオリンピック直前に田山選手の身に起きた、少なからず彼のパフォーマンスに影響があった「心技体」のバランスの乱れ。
理想と現実が交錯し、「メダルを獲るための選手強化と競技の底辺を拡大することは別である」との結論に近い意見も。
タレント発掘の現状としては各地域ブロック,企業チーム単位でしか活動できていないのが実情であり、トライアスロン以外の競技団体との連携,メディアへの露出増,中体連・高体連の競技化,選手の就職先などバックアップの体制・・・などが上げられ、いずれにしてもこの競技がメジャーにならなければ、エリート選手の底辺は広がらないというのが共通した見解でした。

【飯島氏の講演】
チームケンズ代表の飯島謙二郎監督とオリンピック5位入賞に導いた井出樹里選手の出会いのエピソードは有名ですが、チームとして「出来上がった選手」をスカウトの基準とし、「スイムから勝負できて、走れる選手」というこだわりから、現在日本を代表する女子のエリート集団が出来上がったといえます。中山俊行さんのブログにもありましたが、合宿等でバイクを1日300km実施することもあること、ランは上限でも20kmくらいだがスイムはトータル12000m(100m×100本を1分20秒で泳ぐ)など、女子の練習としては考えられない運動量を実施してきています。
最先端の科学的で効率的なトレーニングが常識化している中、監督はあえてこのようなトレーニングを行うことに関して「メンタルに語りかける練習」と位置づけ、生活面に関しても選手個々の性格に応じたアプローチ(実例:後輩の飯を作るなど)、精神的なトレーニングも重視し「人間としての引き出しを多く持つこと」の重要性を強調していました。
体調管理の面では朝から選手の体温・体重・心拍のチェック、個々のヒアリングによる障害予防、吉田トレーナー,寺本コーチ,メカニック(オミノ),尾内さん(女性マネージャー)で主に構成され、企業チームスタッフとしてバランスの良さを感じます。

【JISSラン動作解析報告】
JISSスタッフによる「ランニングの動作解析」では、北京オリンピック金メダルのエマスノーシル(以下エマ)と日本人女子平均(以下女子)選手のさまざまな視点から比較研究報告がなされました。
エマは身長157cm,体重49kgと日本人の体格(159.7cm,51kg)と大差は感じられないのですが、ストライドは女子135cmに対しエマ150cm,ピッチは女子197.5/分に対し200/分,走速度は女子:4.4m/秒,エマ:5m/秒・・・これだけ見てもスピードの違いがわかります。先ず受講者はPCで動作を処理したスティックピクチャー(棒人間)でイメージを観察しました。
注目すべきは接地時間(日:0.21秒,ス:0.19秒)と、足裏の接地時に移動した重心距離。脚が接地している間は日本人と変わらないが、空中で獲得した距離(女子:40cm,エマ:56cm)に違いがあることが解りました。さらに重心下降量は女子の3.6cmに対し、エマは2.5cmであり、接地時の膝の角度は女子20度に対し10度と、あれだけ躍動感があるにもかかわらず上下動の無い動作となっていることが解りました。
よく言われている「ピッチ走法」と「ストライド走法」ですがエマの場合、双方の良い部分だけを動きとして獲得していると感じます。一般的なトライアスリートには難しい技術ですが、検証では接地時の下腿(膝下)角度にも明らかな違いがみられ、女子の7度に対しエマは1度未満となっており、重心移動に対しエリートランナーはいかにブレーキをかけていないかも解ってきています。
以下、ランスピードを獲得するための条件としてまとめました。

① 大股でストライドを広げているのではなく、空中でストライドを獲得している
② 短い接地時間
③ 接地時の下降が小さい
④ 膝下が振り出されていない
⑤ 脚のスイングを強調している

今回の講義の印象では、とくに脚(大腿部)のスイング速度(女子:295度/秒,エマ:
360度/秒)からも解りますが、短距離選手にも強調して指導される「股関節のスイングスピードと接地時の反力」を洗練することは長距離においても共通した部分であるとの認識を再確認しました。このような技術は福島大の川本監督が提唱している内容とリンクする部分も大いに感じます。

HTU強化部としては来年もGW合宿、認定記録会、士別合宿、スプリント合宿など予
定しています。参加はショート・ロング,ジュニア・シニア問いません,意欲のある方と指導者の指示に従える方は是非参加下さい。今後も底辺拡大・選手育成に努め、体力・技術の向上をサポートしていきたいと考えます。